最近、YouTubeを見ていると「.貴社名」「ブランドTLDを取得しませんか?」というビジネス向けの広告が流れることがあります。
「ドメインなら.comや.jpで十分では?」「怪しい商材の売り込みではないか?」と感じた方もいるかもしれません。しかし、これはインターネットの住所管理を行う国際機関(ICANN)が主導する、14年ぶりの世界的プロジェクトに関連した正式な動きです。
今回は、なぜ今この広告が急増しているのか、そもそも「ブランドTLD」を持つことにどのような意味があるのか、元プログラマーの視点で分かりやすく解説します。
何が起きたのか(時系列まとめ)
結論から言うと、この広告が出ている理由は「2026年に、14年ぶりとなる新しいドメインの申請受付が始まるから」です。申請準備に年単位の時間がかかるため、今から企業の勧誘が始まっています。
- 2012年:前回、ドメイン(TLD)の自由化が行われ、
.googleや.canon、.toyotaなどが誕生。 - 空白の14年間:その後、システムの整備や議論のため、新規の申請受付が長らく停止していた。
- 2025年現在:次回の申請受付が「2026年4月頃」に開始されることがほぼ確定。
- なぜ今CM?:申請には「数千万円の費用」と「複雑な審査」が必要。コンサルティング会社やドメイン管理会社(GMO、インターリンクなど)が、顧客獲得のために広告を打ち始めた。
詳細・事実関係(なぜ起きたのか)
そもそも「ブランドTLD」とは?
通常、私たちが使うドメイン(URL)は以下のような形をしています。
example.com(.com = 商業用)example.jp(.jp = 日本)
これに対し、末尾の部分(トップレベルドメイン=TLD)自体を社名にしてしまったのがブランドTLDです。
products.canon(キヤノン)search.google(Google)prime.amazon(Amazon)
このように、「ドットの右側」を自社専用にできる権利のことです。
なぜ大企業はこれを欲しがるのか(プログラマー視点の解説)
一見すると「ただの自己満足」に見えるかもしれませんが、システム屋としての視点では、主にセキュリティ上のメリットが巨大です。
例えば、あなたが銀行のサイトにアクセスする際、smbc.co.jpのようなURLを確認すると思います。しかし、フィッシング詐欺グループはsmbc-login.comのような「紛らわしい偽ドメイン」を簡単に取得できてしまいます。
もし、その企業が「.brandname」を持っていたらどうなるでしょうか。
「当社の本物のサイトは、末尾が必ず『.hitachi』です。それ以外はすべて偽物です」
このように宣言することで、ユーザーは「末尾を見るだけ」で本物かどうかを数学的に100%判断できるようになります。これは、なりすまし対策として最強の手段の一つです。
ハードルの高さ(費用と手間)
YouTube広告で気軽に宣伝されていますが、これを導入できるのは事実上、大企業だけです。
- 申請費用が高い:ICANNへの申請料だけで約22万ドル(約3,300万円)以上かかると予想されています。
- 維持費も高い:年間維持費として数百万円〜が必要になります。
- 技術要件:自社専用のインターネット台帳(レジストリ)を管理する必要があり、専門業者への委託が必須です。
今回のCMは、この「専門業者(レジストリ代行業者)」たちが、2026年の申請ラッシュに向けて顧客を囲い込むために流しているものです。
世間の反応・公式声明
ドメイン管理の国内最大手であるJPRSなどは、2026年の次回募集に向けた動向を定期的にレポートしています。
ICANN理事会は、ICANN84において、申請者ガイドブック(Applicant Guidebook:AGB)を、2025年12月30日までに公開する決議を行いました。 gTLD次回募集の実施に向けた準備が最終段階を迎えています。
[日程] 2026年4月~8月:TLD申請受付期間出典:JPRS『gTLD次回募集に関する動向』
インターネット上では、ITエンジニアを中心に「ついにセカンドラウンド(第2回募集)が来るのか」「申請費が高すぎて個人には関係ない話だ」といった反応が見られます。
まとめ
YouTubeで流れる「.貴社名」の広告は、怪しい詐欺ではなく、「インターネットの住所録が14年ぶりに拡張される」という歴史的なイベントに向けた企業間ビジネスの勧誘です。
- 正体:2026年に開始される新gTLD申請(第2回ラウンド)の案内。
- 対象:ブランド保護やセキュリティを強化したい大企業。
- 注意点:数千万円規模の投資が必要であり、個人ブログや中小企業が気軽に手を出すものではありません。
もしあなたが企業のWeb担当者や経営層であれば、検討する余地はありますが、一般のユーザーとしては「今後、URLの末尾が面白いサイトが増えるかもしれないな」程度に見ておけば問題ありません。


