SNSなどでふと目にする「花吐き病」という言葉。どこか儚く、美しい響きに心を惹かれつつも、これは一体何なのだろうと不思議に思ったことはありませんか。
その正体は、ある一つの切ない感情から生まれる、架空の病でした。それは多くの人の心を掴み、海を越えて広がり、今もなお新たな物語を生み出し続けています。
この記事では、その謎めいた病の正体から、なぜこれほどまでに私たちの心を捉えるのか、その背景にある想いを一緒に紐解いていきたいと思います。
【結論】花吐き病は本当にあるのか?その正体は“切ない創作病”だった

はじめに、多くの方が抱いている疑問にお答えしますね。花吐き病は、実在しない架空の病気です。「嘔吐中枢花被性疾患」というもっともらしい正式名称があるため、本当に存在するのではないかと思ってしまいますが、医学的にこのような症状の病気は報告されていません。
しかし、実在しないにもかかわらず、なぜこれほどまでに多くの人がその存在を調べ、物語を紡ぎ、心を寄せるのでしょうか。
それはきっと、この架空の病が、私たちの誰もが心の内に秘めたことのある、切実な感情の真実にそっと触れているからなのかもしれません。
花吐き病の元ネタは漫画『花吐き乙女』!詳しい設定と治療法を解説
この儚くも美しい病の起源は、2008年から連載された松田奈緒子先生の漫画『花吐き乙女』にあります。二次創作などを通してこの病を知った方も、まずは原作がどのような想いでこの病を描いたのか、その原点に触れてみましょう。
正式名称は「嘔吐中枢花被性疾患」!花吐き病の基本設定
原作の中で、花吐き病は「嘔吐中枢花被性疾患」という正式名称で呼ばれています。はるか昔から人知れず流行と潜伏を繰り返してきた、不思議な奇病として描かれているんですよ。
症状と原因は「片思いの拗らせ」
その症状は、ただ一つ。「片思いをこじらせて苦しくなる」と、口から花を吐いてしまうというものです。ここで注目したいのは「こじらせる」という言葉の響きですね。誰にも打ち明けられない想いや、募るばかりの愛情が、行き場をなくして身体の中から溢れ出てしまう…そんな切ない心の状態が目に浮かぶようです。
吐いた花に触れると「感染する」という原作設定
原作の大きな特徴の一つに、吐き出された花に直接触れると、その人に病が「感染する」という設定があります。想いが人から人へと伝播していく様子は、恋という感情が持つ抗いがたい力を象徴しているようにも感じられますね。
完治する唯一の方法は「両思いになること」
根本的な治療法は見つかっていないとされるこの病ですが、たった一つだけ、完治する方法が存在します。それは、想い人と「両思いになる」こと。成就した恋の証として、患者は最後に白銀の百合を吐き出し、病から解放されるのです。最も絶望的な症状の治療法が、人生で最も幸福な瞬間に訪れるという設定に、この物語の持つ優しさと残酷さ、そして美しさが凝縮されているように思います。
なぜ有名に?pixivから世界へ、二次創作で花吐き病が爆発的に広まった歴史
原作を知らなくても「花吐き病」という言葉は知っている、という方は少なくないでしょう。それは、この設定が二次創作という形で、多くの創作者たちの心に火をつけ、瞬く間に広がっていったからです。
2011年pixivでの初登場から2014年の拡散へ
記録をたどると、2011年にイラスト投稿サイトpixivで、初めてこの設定を用いた二次創作小説が投稿されました。その後、数年間はごく一部で知られる存在でしたが、2014年になると投稿数が241作品へと急増します。
Twitterでのバズが流行の起爆剤に
この急増の背景には、Twitter(現X)での拡散がありました。あるユーザーの紹介がきっかけとなり、「片思いをすると花を吐く」というあまりにも切なく美しい設定が多くの人の目に留まったのです。個人の秘めた想いが、SNSを通じて一瞬で共有され、大きな共感の波紋を広げた瞬間だったのかもしれませんね。
二次創作で追加・変化した設定とは?(感染しない、花言葉の意味など)
創作者たちの手によって、花吐き病はさらに多様な物語を内包するようになります。原作の「感染する」設定をなくして純粋な個人の病としたり、吐き出す花の種類に「花言葉」を重ねてキャラクターの細やかな心情を表現したり。時には、想いが叶わなければ死に至るという、より悲劇的な結末が描かれることもありました。原作へのリスペクトと共に、それぞれの「理想の切なさ」を追求した結果、物語はより深い奥行きを持つようになったのです。
海外でも大人気!英語圏で独自進化した「Hanahaki Disease」の世界
この切ない病は、海を越えて海外のファンの心も捉えました。特に英語圏では「Hanahaki Disease」として知られ、独自の解釈を加えられながら、今もなお愛されています。
オメガバースとは逆経路!日本から世界へ渡った創作文化
海外発祥の創作設定「オメガバース」が日本に輸入されたのとは逆に、花吐き病は日本から世界へと広まっていった、少し珍しいケースです。国や文化は違えど、片思いの痛みという普遍的な感情が、多くの人の心を繋いだ証と言えるでしょう。
海外で見られる「体から花が生える」という独自設定
海外の二次創作、特にファンフィクションサイト「AO3」などでは、日本とは少し違う、より身体的な痛みを伴う設定が加えられることがあります。例えば、口から吐くだけでなく「体から直接花が生えてくる」という描写や、手術で花を取り除けるが「恋する気持ちごと失ってしまう」という設定です。愛か、それとも自分自身か、という究極の選択を迫るこれらの設定は、物語にまた新たな葛藤と深みを与えているように感じますね。
花吐き病だけじゃない!切ない創作奇病と類似作品まとめ
花吐き病の世界に触れて、もしかすると「他にも似たような物語はあるのだろうか」と気になった方もいるかもしれません。内なる感情が身体に変化を及ぼすというテーマは、古今東西、さまざまな形で描かれています。
肺に睡蓮が咲く…ボリス・ヴィアン『日々の泡』
1947年に発表されたフランスの小説『日々の泡』には、愛する女性の肺の中に睡蓮の蕾が育ってしまう、という奇病が登場します。主人公は彼女を救うため、その周りに常に花を飾り続けるのですが…。時代や国を超えて、愛と病を結びつける物語は、人の心を強く惹きつける力を持っているようです。
pixivで人気の他の創作奇病(星涙病、鉱石病など)
pixivなどの創作サイトでは、花吐き病以外にも、たくさんの「創作奇病」が生み出されています。涙が星になる「星涙病」、体が宝石に変わっていく「鉱石病」、背中から羽が生える「天使病」…。これらはどれも、言葉にできない想いや痛みを、目に見える美しい形で表現したい、という人間の根源的な願いから生まれたのかもしれませんね。
コスプレでも人気!花吐き病が表現するキャラクターの感情とは
花吐き病は、物語としてだけでなく、コスプレという視覚的な表現の世界でも深く愛されています。そこには、一枚の写真にキャラクターの秘めた想いを凝縮させる、という魅力があります。
花言葉で表現されるキャラクターの切ない恋心
コスプレでは、キャラクターが吐き出す花の種類が、重要な意味を持ちます。「私を忘れないで」と願う勿忘草、「この恋に気づいて」と訴えるリナリア…。一輪の花に、キャラクターが声に出せない心の叫びのすべてを託す。その奥ゆかしさと切実な想いが、見る人の心を強く打つのです。
儚く美しいビジュアルがコスプレイヤーを魅了
苦しいはずの症状が、写真の中では儚く美しい一瞬として切り取られます。口元に添えられた色鮮やかな花びらは、痛みを伴う告白のようにも、最後の抵抗のようにも見えます。この「苦しみの美化」と、そこに生まれる物語性こそが、花吐き病の持つ抗いがたい魅力の源泉なのでしょう。
なぜ人は「花吐き病」に惹かれるのか?創作文化が映し出す普遍的な願い
ここまで、花吐き病の成り立ちや広がりを見てきました。最後に、なぜ私たちはこの架空の病に、これほどまでに心を動かされるのか、少しだけ考えてみたいと思います。
片思いの経験は、多くの人にとって普遍的なものでしょう。嬉しいけれど、苦しくて、もどかしい。そんな言葉にしがたい内面の感情が、「花を吐く」という形で可視化されることに、私たちは一種のカタルシスを感じるのかもしれません。
汚いものであるはずの「嘔吐」が、最も美しいものの一つである「花」に変換される。その発想の転換に、私たちは救いを見出します。誰かを強く想う心の痛みは、決して醜いものではなく、時に花のように美しく咲き誇ることさえある。花吐き病という創作は、私たちにそう優しく教えてくれているのではないでしょうか。
まとめ
花吐き病は、現実には存在しない架空の病です。しかし、その物語は、松田奈緒子先生の原作から生まれ、二次創作や海外のファンたちの手によって、豊かに、そして多様に育まれてきました。
それは、私たちの心の中に確かにある「片思いの痛みと美しさ」を映し出す、一枚の鏡のような存在なのかもしれません。もしあなたがまたどこかでこの言葉に出会ったら、その裏にある切実な想いに、そっと耳を傾けてみてはいかがでしょうか。


