映画『ラスト』の撮影中に起こった衝撃的な銃誤射事故は、ハリウッドの著名俳優アレック・ボールドウィン氏を中心とした法的な論争を引き起こしました。この記事では、事故の経緯、ボールドウィン氏の法的な立場、そしてアメリカにおける過失致死罪を詳細に解説します。
アレック・ボールドウィン氏は、長年にわたり映画やテレビで活躍するアメリカの俳優で、プロデューサーや司会者としても知られています。
このようなベテランの俳優が、映画の撮影で銃を誤射して死者を出してしまう衝撃の事故はなぜ起きたのでしょうか？
アレック・ボールドウィン – その人物像とキャリア
アレック・ボールドウィン（本名：Alexander Rae Baldwin III、1958年4月3日生まれ）は、アメリカ合衆国の俳優、プロデューサー、司会者で、ニューヨーク州ロングアイランド出身です。彼はカトリック系の家庭で育ち、6人兄弟の長男であり、弟のダニエル、ウィリアム、スティーヴンも俳優として活動しています。ニューヨーク大学とリー・ストラスバーグ・インスティチュートで演技を学んだ後、1986年に映画デビューを果たしました。
ボールドウィン氏は、『レッド・オクトーバーを追え!』でのジャック・ライアン役で広く注目を集め、1990年代半ばまで主演級のスターとして活躍しました。その後は脇役に回ることが多くなりましたが、演技力は高く評価されています。2003年には『The Cooler』でナショナル・ボード・オブ・レビュー助演男優賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされました。また、NBCのコメディシリーズ『30 ROCK/サーティー・ロック』での演技では、プライムタイム・エミー賞やゴールデングローブ賞などを受賞しました。
2010年には第82回アカデミー賞授賞式の司会を務め、2011年にはハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに名前が登録されました。NBCの『サタデー・ナイト・ライブ』では、ホストとして最多出演を記録し、ドナルド・トランプに扮したパフォーマンスでも話題を呼びました。
ボールドウィン銃誤射事件の全貌とは？
このセクションでは、映画『ラスト』の撮影中に起きた銃誤射事故の背景と、それによってアレック・ボールドウィン氏がどのように法的に問われているのかを掘り下げます。
映画「ラスト」の撮影で何が起きた？
2021年10月、アメリカ・ニューメキシコ州で西部劇映画『ラスト』の撮影が行われていました。撮影中の悲劇は、アレック・ボールドウィン氏が使用した拳銃から実弾が発射されたことにより発生しました。この事故で、撮影監督のハリナ・ハッチンスさんが死亡し、監督のジョエル・ソウザさんが負傷したのです。
映画のリハーサル中に使用されたこの拳銃は、通常は小道具として用いられるべきものでした。しかし、何らかの理由で実弾が装填された「本物の銃」として使用されてしまいました。驚くべきことに、拳銃に実弾が装填されている事実は、ボールドウィン氏を含む撮影現場の多くのスタッフには認識されていませんでした。事故発生時、ボールドウィン氏は実弾入りであるとは知らずに拳銃を操作しており、結果的に致命的な誤射につながったのです。
この出来事は、映画撮影現場での安全管理の問題を浮き彫りにし、多くの議論を呼んでいます。どのようにして実弾が撮影用の拳銃に装填されたのか、そしてなぜその危険が事前に検知されなかったのか、これらの疑問は今もなお完全には解決されていません。
アレック・ボールドウィン、過失致死罪で起訴
アレック・ボールドウィン氏は、2021年10月に撮影中の事故に関連して過失致死罪で起訴されました。起訴状によると、ボールドウィン氏は拳銃の使用に関して過失や注意を怠ったとされています。しかし、ボールドウィン氏は自身が実弾が入っているとは認識していなかったと無罪を主張しており、その代理人弁護士は法廷での争いを楽しみにしているとコメントしています。
この起訴は、昨年取り下げられたにもかかわらず、新たな証拠や事実が明らかになったことを受けて再び行われました。この再起訴は、映画業界や法的なプロセスにおける安全性と責任に関する大きな議論を呼んでいます。
法廷での戦い、無罪を主張するボールドウィン
アレック・ボールドウィン氏は、撮影中の誤射事故に関して過失致死罪で起訴されましたが、彼の弁護団は一貫して無罪を主張しています。特に、ボールドウィン氏は銃の引き金を引いたことを否定しており、その主張は弁護団によって強調されています。
もともとこの事故に関しては、ボールドウィン氏の起訴が一度取り下げられました。しかし、独立機関による新たな分析結果が出されたことで、再び起訴に至ったのです。この分析結果には、リハーサル中にボールドウィン氏が銃の引き金を引いたという内容が含まれていました。
この再起訴により、ボールドウィン氏は法廷で再び自らの無罪を証明する必要に迫られています。法廷での展開や、弁護団の戦略がどのような影響をもたらすのか、注目が集まっています。
もし有罪だった場合はどうなるの？
この見出しでは、ボールドウィン氏のケースを通じて、アメリカにおける傷害致死罪の違いについて掘り下げます。アメリカの法律では過失致死罪がどのように扱われるのかを詳しく解説します。
そもそもアメリカの法律における殺人罪とは？
アメリカ合衆国における殺人罪の法律は、地域によって異なりますが、一般的には数段階の罪が存在しています。これらは全て「殺人（homicide）」として分類され、最も重大な罪は第一級殺人であり、これに次ぐのが第二級殺人です。さらに、いくつかの州では第三級殺人が存在し、他の州ではこれが故意のない過失致死（voluntary manslaughter）や非故意の過失致死（involuntary manslaughter）に区分されます。
第一級殺人は、故意で計画的かつ悪意を持って行われる殺人です。重罪殺人とも言われ、危険な犯罪に関与している間に死亡が発生した場合に適用される罪で、通常は第一級殺人と見なされますが、場合によっては第二級殺人となることもあります。第二級殺人は、計画されていない故意の殺人であり、加害者が重大な身体的危害を意図しているものの、特定の殺害の意図はない場合に適用されます。
過失致死罪とは、死を引き起こす意図がないが、故意の過失行為が死に至る場合に適用される罪です。例えば、飲酒運転による死亡は一般に過失致死罪とされます。この「非故意」な要素は、死をもたらす意図がないことを指します。上述の殺人罪には殺害の意図が伴いますが、過失致死罪では、加害者がその意図的な行動から死が結果として生じることを意図していません。意図が存在する場合でも、それは死をもたらす暴力行為を引き起こす意図に関連するだけで、死そのものをもたらす意図ではありません。
出典：「https://en.wikipedia.org/wiki/Murder_in_United_States_law#Degreesより」
重大な過失があれば第二級殺人になる可能性も
アメリカ合衆国における過失致死罪は、死を引き起こす意図がないが、故意の過失行為により死に至る罪です。過失致死罪は、飲酒運転による死亡などが典型的な例とされています。この「非故意」な要素は、死をもたらす意図がないことを指しますが、過失行為から死が結果として生じるため、過失致死とされます。
ただし、重罪殺人や堕落心殺人（depraved-heart murder）などの例外もあります。これらは、明確な殺害意図がないにもかかわらず、非自発的過失致死ではなく、自発的過失致死または第二級殺人とみなされる場合があります。例えば、堕落心殺人は、加害者が死亡に至る可能性を知りながらも重大な身体的危害を加える意図で行動し、それが死に至る場合に適用されます。
裁判において、ボールドウィン氏のケースで重大な過失が認定されると、彼の罪は過失致死から第二級殺人に昇格する可能性もあります。これは、アメリカの法体系における過失致死罪の複雑さを示しています。
事件の全体的なまとめと今後への期待
この記事では、アレック・ボールドウィン氏による映画『ラスト』の撮影中の銃誤射事故と、その後の法的な展開について詳しく見てきました。この事件は、映画業界における銃の管理と安全基準に関する重要な問題を浮き彫りにしました。
撮影現場で使用された拳銃が適切に管理されていなかったことは、このような悲劇を引き起こす大きな要因であったと言えます。拳銃に実弾が装填されていたにも関わらず、これが誰にも気づかれなかったのは、映画製作現場の安全対策に深刻な欠陥があったことを示しています。
また、ボールドウィン氏が銃の引き金を引いていないと主張している点に関しても、多くの疑問が残ります。FBIの捜査結果によれば、銃は引き金を引かなければ発射されない設計であったとされています。この事実は、ボールドウィン氏の主張と矛盾しており、事件の真相について更なる調査が必要であることを示しています。
今後、映画業界はこの事故から学び、撮影現場の安全基準を強化し、再発防止に努める必要があります。映画製作は芸術性と創造性に満ちた分野ですが、それを支える安全な環境の構築が何よりも重要です。
コメント