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【わさビーフ危機】なぜお菓子工場は「重油」を使うのか?ホルムズ海峡封鎖が暴いた日本のサプライチェーンの脆弱性

この記事のポイント

  • わさビーフが生産停止に:山芳製菓が、ホルムズ海峡封鎖に伴う「重油」の調達難により工場の操業を一時停止。
  • なぜお菓子づくりに重油?:スナック菓子に不可欠な「高温の大型フライヤー」を連続稼働させるための、もっとも熱量が高くコストパフォーマンスの良い「電源(燃料)」だから。
  • 他業界への影響も不可避:重油は食品工場だけでなく、農業用ハウス(暖房)、銭湯、大型船舶など、生活インフラを支える多くの業界で「基幹システム」として依存されています。

こんにちは、村上陽介です。

2026年3月17日、スナック菓子業界に激震が走りました。「わさビーフ」で知られる山芳製菓が、国際情勢の悪化(ホルムズ海峡封鎖)を理由に、工場の操業を一時停止すると発表したのです。

ポテトチップス不足ショックの再来か、と身構える消費者も多い中、ニュースを読んで一つの疑問を持った方もいるはずです。「お菓子を作るのに、なぜ重油が必要なの?」と。今回は、私たちの食卓というエンドユーザー環境を支える、見えざる「基幹システム(重油)」の役割について解説します。

スナック菓子の命、それは「フライヤー」

ポテトチップスをはじめとするスナック菓子の製造において、心臓部となるのが「大型フライヤー(揚げ機)」です。工場では、ベルトコンベアに乗って大量の食材が次々と油の中を通過していきます。

この時、油の温度を一定の高温に保ち続ける必要があります。大量の冷たい食材が入り続けても温度を下げずに加熱し続けるためには、私たちが家庭で使うような電気やガスの火力では全くスケールしません。

そこでプラント(工場)サイズの巨大な熱源として選ばれるのが「重油ボイラー」です。重油は、原油からガソリンや灯油などを精製した後に残る油ですが、その最大の特徴は「発熱量の圧倒的な高さ」と「コストの安さ」です。ITシステムで言えば、最高スペックの電源ユニットを最も安価に導入できるという、運用コスト上非常に合理的な選択肢なのです。

実は多くの業界が「重油」というレガシーに依存している

近年では環境配慮の観点からクリーンなLNG(液化天然ガス)ボイラーや電気フライヤーへの移行(マイグレーション)を進める企業も増えていますが、設備投資額が莫大になるため、長年使ってきた重油ボイラーを稼働させ続けている工場は珍しくありません。

そして、この「重油依存」はお菓子工場だけにとどまりません。例えば、冬場のハウス栽培(トマトやイチゴ)の暖房、私たちの身近な銭湯や温浴施設のボイラー、そして物流の要である大型船舶のエンジン燃料など、実に多岐にわたる業界が重油を熱源として利用しています。

つまり、ホルムズ海峡が封鎖され重油が日本に入ってこなくなるということは、山芳製菓だけでなく、日本の食や暮らしに関わるさまざまなレイヤーで「システムダウン」の連鎖が起きる危険性を孕んでいるのです。

おわりに:脆弱なサプライチェーンの再構築を

「わさビーフが食べられない」という身近なニュースの裏には、海外の紛争によって一瞬で寸断されてしまう日本の脆弱なエネルギー・サプライチェーンの現実が隠れています。

山芳製菓の担当者の方々は現在、代替燃料の確保という「緊急パッチ当て」に奔走されていることでしょう。一日も早い稼働再開を願うとともに、私たちも、当たり前のように届くサービスの裏にある「エネルギーの構造」について、いま一度見直す必要があるのかもしれません。

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