「農家の時給は10円」――そんな衝撃的な数字、あなたもどこかで目にしたかもしれません。えっ、本当に?と驚いた方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「時給10円」というワードの背景にある“数字のカラクリ”と、現場の農家さんたちがどう感じているのかを、できるだけやさしく・わかりやすく解説していきます。
知れば知るほど奥深い、日本の農業のリアル。あなたの見方もきっと変わるはずです。
農家の「時給10円」って本当なの?
まずは、「時給10円」という衝撃的な数字が、どこから出てきたのかを見ていきましょう。メディアで話題になったきっかけや、その対象となる農家の範囲もあわせて解説します。
そもそもこの数字はどこから出たの?
話題のきっかけは、あるテレビドキュメンタリーと新聞報道でした。
「時給10円」という数字が最初に注目を集めたのは、2025年1月25日の朝日新聞記事です。そこでは、山形県の米農家・菅野芳秀さんに密着した番組「時給10円という現実~消えゆく農民~」が紹介されていました。
番組では、農林水産省の「農業経営統計調査」に基づいたデータとして、米農家の年収が平均1万円程度(2021〜2022年)であり、年間労働時間1000時間で割ると「時給10円」になるという試算が紹介されたのです。
どんな農家が対象になってるの?
「時給10円」という数字の対象は、あくまで個人で営む米農家の平均的なケースです。
兼業農家や小規模農家も含まれており、売上規模が小さく、コストが収入を上回るようなケースが多く見られます。
つまり、農家全体が「時給10円」ではありません。大規模に経営している法人農家や直販で成功している事例はこの範囲に含まれておらず、あくまで平均値の話として受け取る必要があります。
「時給10円」の計算方法をわかりやすく解説
ここからは、なぜそんなに低い時給になってしまうのか、数字の裏側をやさしく紐解いていきます。「どこまでが収入?」「何が経費?」「労働時間ってどう計算してるの?」といった素朴なギモンにも答えていきます。
農業収入の平均っていくらくらい?
まず押さえておきたいのは「農業所得(のうぎょうしょとく)」という言葉。
これは農業で得た収入から、肥料・燃料・機械・資材などの経費を引いた“実質的なもうけ”のことです。
農林水産省によると、たとえば2021年のデータでは、個人経営体の農業所得の平均は115.2万円。しかし、この数字は規模の大きい農家も含まれているため、小規模農家に限るともっと低くなるのが現実です。
労働時間の計算に無理はないの?
「1000時間」ってどうやって出てきたの? そう疑問に思った方もいるかもしれません。
農林水産省の調査では、農家の1年間の労働時間を農業類型ごとに推計しています。米農家の場合、年間でおよそ1000時間程度が目安になるとされていますが、この数字には季節ごとの繁忙・閑散差や地域ごとの違いは考慮されていません。
そのため、「もっと働いてるよ!」という声もあれば、「1000時間も本当に働いてるの?」と疑問を持つ人もおり、正確な実態を捉えるのはなかなか難しいのです。
どんな費用が引かれているの?
農業経営には、以下のようなコストがかかります。
- 肥料代(近年は価格が1.5倍以上に上昇)
- 農機具の導入費・メンテナンス費(トラクター1台で数百万円)
- 燃料費(軽油・ガソリンの高騰)
- 資材費(ビニールハウス、ネット、苗など)
- 水利費・土地改良費・固定資産税 など
これらのコストを差し引いた結果、残る「利益」が限られてしまい、労働時間で割ると極端に低い“時給”になってしまうというわけです。
実際の農家さんはどう感じている?
「時給10円」という衝撃的な数字に対して、現場で働く農家さんたちはどんな思いを抱いているのでしょうか?SNSやコメント欄には、リアルで切実な声があふれています。
「それでも続ける理由」が切ない
赤字でも農業を続ける人は少なくありません。その理由としてよく聞かれるのが、「先祖代々の土地を守りたい」「田んぼを休ませたら元に戻らない」といった声です。
たとえば、ある農家さんはこう語ります。
「農機の燃料も資材も高騰して、収入はどんどん減っています。それでも田んぼを放置すると草が生い茂って、再び耕すのが大変なんです。」
農業はただの仕事ではなく、家族の歴史や土地との結びつきの中にある営み。だからこそ、簡単にはやめられないのです。
「本当に10円なの?」という農家さんの疑問の声
一方で、「時給10円」という数字そのものに疑問を感じている農家さんもいます。
「1000時間も畑に出てるか?って言われると、正直そんなに働いてないかも」「年収1万円とか、そんなわけないでしょ?」
という声も多数。
実際には、営農類型(お米・野菜・果樹など)や地域、規模、販売先の有無によって、収入は大きく違います。また、農業を専業にしていない“兼業農家”の場合、本業の収入との区別がつきにくくなり、「実際の生活状況」と「農業所得」が一致しないケースもあるのです。
農家の収入ってどうやったら増えるの?
厳しい環境の中でも、工夫して収入を伸ばしている農家さんはたくさんいます。最近では、テクノロジーやSNSの活用など、新しい動きも広がってきました。
直販・法人化・スマート農業などの取り組み
農家の間で広がりつつあるのが、以下のような取り組みです。
- 直販(ちょくはん):消費者に直接販売することで、卸売を介さず利益率アップ
- 農業法人化:家族経営から法人組織にすることで、補助金の対象が広がったり、経営の安定化につながる
- スマート農業:ドローンやセンサー、アプリなどを使って効率的に作業を行う仕組みを導入
たとえば、Instagramで自分の農作物の育つ過程を発信し、そのままオンライン販売につなげている若手農家も。こうした“顔の見える農業”が消費者の支持を集めています。
実際に成功している農家さんの例(ざっくり紹介)
いくつかの成功例を見てみましょう。
もちろん、すべての農家にこの方法が合うとは限りませんが、「農業=儲からない」というイメージを覆すような動きが確かに増えてきています。
まとめ|「時給10円」はただの数字じゃなかった
「農家の時給が10円」と聞くと、ついショッキングな数字ばかりが一人歩きしてしまいます。でも、その背景には、統計の取り方、地域差、経営の形態、そして何より“人の思い”があります。
数字だけでは測れないもの――
それが、農業にはたくさん詰まっているんですね。
「儲からない仕事」として片づけられがちな農業ですが、今、少しずつ新しい風も吹いています。
大切なのは、単に「支援すべきかどうか」ではなく、「どうしたら続けられるか」という視点で、私たち一人ひとりが考えることかもしれません。
あなたなら、どう考えますか?
📌 近藤 健太郎|元新聞記者・フリーライター
元・地方新聞記者。現在はトレンド解説や時事系の記事を中心に、社会問題をわかりやすく解説するライターとして活動中。