サイトアイコン 村上陽介のトレンドウォッチ

ネパールSNS禁止はいつから?対象一覧とZ世代の怒りを元記者が解説

2025年9月、ネパール政府が突如として主要なSNSプラットフォームを一斉に禁止するという衝撃的なニュースが世界を駆け巡りました。多くのメディアが若者たちの抗議デモやその後の混乱を報じましたが、この問題の本質は単なる「SNSの禁止」にあるのでしょうか。

元新聞記者としての経験から言えば、こうした政府の強硬策の裏には、必ずより根深い社会構造の問題が隠されています。この記事では、表面的な事実の羅列に留まらず、その背後に隠されたネパールの経済的な文脈、政治的な力学、そして Z世代の静かな怒りを読み解き、この出来事が我々に何を問いかけているのかを深く考察していきます。

【衝撃】2025年9月4日に突如開始!ネパール政府のSNS一斉禁止措置の全貌

まずは、事の経緯を冷静に整理してみましょう。ネパール政府は2025年9月4日の午前0時をもって、国内外の主要なソーシャルメディアプラットフォームへのアクセスを国内から一斉に遮断しました。政府が公式に掲げた理由は「サイバー犯罪の規制」や「偽情報の拡散防止」でしたが、その手法は極めて強硬でした。

この措置の法的根拠とされたのは、2023年に制定された「ソーシャルメディア利用管理指令2080」です。通信情報技術省とネパール通信庁(NTA)は、この指令に基づき、対象となるプラットフォームに対して8月28日にわずか7日間の最終猶予を通告。期限内に政府の求める「登録」を行わなかった企業を、文字通り締め出したのです。しかし、これほど性急な決定の裏には、単なる行政手続き以上の政治的な意図が隠されていると見るべきでしょう。

禁止されたのは26のプラットフォーム:完全リスト公開

今回、ネパール政府によって禁止対象となったプラットフォームは、私たちの生活に深く根差したものがほとんどです。以下がその一覧です。

一方で、TikTokやViberといった一部のプラットフォームは禁止を免れました。これは、彼らが事前に政府の要求する登録手続きを完了していたためです。この対応の差が、後に述べる大手プラットフォーマーの姿勢と鮮やかな対比を描き出すことになります。

わずか7日間の猶予しか与えられなかった理由

「なぜ、たった7日間だったのか?」この疑問は、今回の措置の本質を理解する上で極めて重要です。政府は2023年11月から繰り返し登録を要請してきたと主張していますが、最後の通告から遮断までの期間がこれほど短かった背景には、差し迫った政治的危機があったと考えるのが自然です。

当時のネパールでは、政治家の子息たちの豪華な生活ぶりがSNS上で次々と暴露され、国民の不満が沸点に達しつつありました。政府にとって、この情報の拡散は体制を揺るがしかねない脅威です。つまり、7日間という短い猶予は、プラットフォーム側の対応を待つためではなく、国内の反政府的な世論を早急に鎮圧するための「時間切れ」を意図的に作り出す、政治的なカードだった可能性が極めて高いのです。

あなたの知らない「登録義務」の真実:なぜFacebookやYouTubeは応じなかったのか?

政府はあくまで「国内法に基づく登録義務」を主張しましたが、Meta社やGoogle社がこれに応じなかったのには、相応の理由があります。彼らが単に手続きを怠ったと考えるのは、あまりに表層的な見方でしょう。

政府が要求した具体的な登録条件とは

政府が求めた登録の条件は、海外の巨大IT企業にとっては到底受け入れがたいものでした。主な要件を以下に示します。

特に「国内代表者の設置」と「税務情報の開示」は、企業の運営方針やグローバルな税務戦略と真っ向から対立します。これは単なる行政手続きではなく、ネパール政府がデジタル空間における「主権」を主張し、巨大プラットフォーマーを自国の法体系の管理下に置こうとする試みでした。大手企業がこれに応じれば、他国でも同様の要求が続出する前例になりかねません。彼らにとって、ネパールでの事業継続以上に、この前例を作らないことの方が重要だったのです。

禁止を免れたTikTokとViberの対応策

対照的に、TikTokやViberは早期に政府の要請に応じ、国内に連絡窓口を設置するなど、規制要件を満たしていました。特にTikTokは、2023年に一度禁止された経験から、政府との対話と現地法への適応を迅速に進めたことが功を奏しました。この動きは、プラットフォームによって対国家戦略が大きく異なることを示唆しており、デジタルガバナンスの未来を考える上で興味深い事例と言えます。

19人が命を落とした「Z世代抗議」の背景にある深刻な問題

政府の強硬策は、思わぬ形で裏目に出ます。SNSが遮断された直後から、若者たちの怒りが爆発したのです。しかし、彼らを突き動かしたものは、単に「SNSが使えなくなった」という不満だけではありませんでした。

SNS禁止だけではない:汚職への怒りが爆発

2025年9月8日、首都カトマンズで5,000人以上が参加する大規模な抗議デモが発生しました。参加者の中心は13歳から28歳の、いわゆる「Z世代」です。彼らの抗議は国会議事堂への侵入を試みるほど激しく、警察との衝突の結果、実弾発砲によって19人もの命が失われるという悲劇に至りました。

彼らの怒りの根源は、SNS禁止そのものよりも、その背景にある政治エリートの汚職と深刻な経済格差にありました。国民の平均年収が1,300ドルに過ぎない中で、政治家の子息がSNSで見せびらかす贅沢な暮らし。若者たちは、自分たちの未来が、その特権階級によって奪われていると感じていたのです。SNSは、彼らにとって唯一の不満表明の場であり、未来への希望でした。政府の措置は、その最後の砦を奪う行為に他ならなかったのです。

海外送金に依存するネパール経済への打撃

この一件は、ネパール経済が抱える構造的な脆弱性をも浮き彫りにしました。人口約3,000万人のうち、約20%にあたる580万人以上が海外で働き、彼らからの送金がGDPの実に3割以上を占めているという現実です。

多くの家庭が、WhatsAppやFacebook MessengerといったSNSを通じて海外の家族と連絡を取り、送金のやり取りをしています。今回の禁止措置は、この生命線を断ち切りかねない暴挙でした。小規模事業者がSNSを販売チャネルとして利用していた例も多く、経済的な打撃は計り知れません。言論の自由を抑圧する行為が、回りまわって自国の経済の首を絞める。これは、現代社会におけるデジタルインフラの重要性を示す、あまりに痛烈な教訓です。

【最新速報】禁止措置は解除!しかし根深い課題は残ったまま

国内外からの猛烈な批判を受け、ネパール政府はSNS禁止からわずか4日後の9月8日夜、緊急内閣会議を開き、禁止措置の即日解除を決定しました。しかし、これで全てが解決したわけではありません。

9月8日の緊急解除決定の裏事情

政府が「Z世代の要求に応える」として禁止を解除した背景には、国内のデモ激化に加え、国連やアムネスティ・インターナショナルといった国際機関からの厳しい非難がありました。国際社会からの圧力と、これ以上の国内の混乱は避けたいという政治的判断が働いた結果です。内務大臣が引責辞任したものの、政府は「決定を後悔していない」と強調しており、根本的な姿勢が変わったとは言えません。

今後の規制強化への懸念

今回、政府は最高裁のお墨付きを得た行政命令で禁止を強行しました。そして、より包括的な規制を可能にする「ソーシャルメディア法案2081」は、まだ国会で審議中です。登録制度自体は維持する方針であり、今後も政府の都合次第で、同様の措置が取られるリスクは消えていません。表現の自由と国家による規制のバランスという、根深い課題が残されたままなのです。

よくある質問と回答

Q. 今回のSNS禁止騒動の最も根本的な原因は何ですか?

A. 表面的な理由は「サイバー犯罪対策」ですが、本質的な原因は、SNSによって可視化された政府高官の汚職や経済格差に対する国民の不満を、政府が恐れたことにあります。SNS禁止は、不都合な真実を隠蔽するための言論統制が目的だったと言えるでしょう。

Q. なぜZ世代が抗議デモの中心になったのでしょうか?

A. Z世代にとってSNSは、単なるコミュニケーションツールではなく、情報収集、意見表明、そして経済活動の基盤そのものです。また、深刻な若者の失業問題に直面する彼らにとって、海外出稼ぎに依存する経済構造への絶望感も強く、SNS禁止は未来を奪われるに等しい行為だったためです。

Q. 禁止が解除された今、今後のネパールはどうなると考えられますか?

A. 短期的には沈静化するでしょうが、政府が登録制度や包括的な規制法案を維持する限り、再び緊張が高まる可能性があります。今回の事件は、国民、特に若者たちに「声を上げれば政治を動かせる」という成功体験を与えました。今後、政府と国民の間でデジタル空間の自由を巡る綱引きが続くと予想されます。

まとめと今後の展望

本稿で論じてきたように、ネパールで起きたSNS禁止騒動は、単なるIT政策の失敗ではありません。それは、海外送金に依存する脆弱な経済構造、政治エリート層の腐敗、そしてデジタルネイティブであるZ世代の台頭という、現代ネパールが抱えるいくつもの課題が交錯した点火点でした。

表面的な現象に一喜一憂するだけでは、本質を見誤ります。この一件は、デジタル主権を主張する国家と、国境を持たないプラットフォーマー、そして自由な言論空間を求める市民との間で、世界中が直面している普遍的な課題を私たちに突き付けています。この問いを、読者の皆さんと共に考え続けるきっかけになれば幸いです。

参考文献

スポンサーリンク
モバイルバージョンを終了