「便利になったけれど、これでいいのか?」——。
Googleの「AIによる概要(AI Overviews)」やPerplexityなど、質問にAIが直接答えてくれる検索サービスが普及しています。しかし今、日本の公正取引委員会がこの仕組みに対して厳しい視線を向けています。
なぜ便利な技術が「違法」の疑いをかけられているのか。もし規制されたら我々の検索体験はどう変わるのか。元ITエンジニアの視点で、技術と法律の境界線を分かりやすく解説します。
何が起きたのか?(公取委の動き)
事態が動いたのは、生成AIの検索機能が一般的になり始めた直後からです。
- 調査の開始:公正取引委員会は、検索エンジンやSNSを運営する巨大IT企業(プラットフォーマー)に対し、ニュース配信社などとの取引実態についての調査を開始。
- 焦点:AIがWebサイトの情報を勝手に学習・要約して表示することが、「独占禁止法上の問題」にあたるかどうかの確認。
- 背景:新聞協会や雑誌協会などが、「記事が勝手に使われ、サイトへのアクセスが激減している」と強い懸念を表明していたこと。
- 現状:まだ「違法」と確定したわけではなく、「実態を把握し、必要であれば指針(ガイドライン)を作る」というフェーズです。
なぜ問題視されているのか?(技術と法律の衝突)
一言で言えば、「情報のタダ乗り(フリーライド)」が起きているからです。
1. 「検索」と「回答」の決定的な違い
従来のGoogle検索は、「図書館の目録」でした。「知りたい情報はこの本(サイト)にありますよ」と案内し、ユーザーをそのサイトへ送ることで、サイト側には「広告収入」などのメリットがありました。
しかし、今のAI検索は違います。
- AIの挙動:サイトの中身を読み込み、美味しい部分だけを抜き出して、検索結果画面で答えを完結させる。
- 結果:ユーザーは元サイトをクリックしない(ゼロクリック検索)。
- 被害:情報を作った人(サイト運営者)には1円も入らず、アクセス数も減る。
元プログラマーとして言わせてもらえば、これは「他人のふんどしで相撲を取る」を全自動化・超高速化したシステムです。構造的に、情報発信者が一方的に損をする仕組みになってしまっているのです。
2. 独占禁止法のどの部分に触れる?
公取委が注目しているのは、主に「優越的地位の濫用」です。
- 圧倒的な力:Googleなどのプラットフォーマーは、ネット上の「関所」のような存在です。
- 不当な扱い:もしプラットフォーマーが、「AIに学習させたくないなら、検索結果にも載せないよ」といった強気な態度(または暗黙の圧力)をとった場合、サイト側は拒否できません。これが「優越的地位の濫用」にあたる可能性があります。
もし「違法」や「規制対象」になったらどう変わる?
今後、公取委のガイドラインによって、AI検索には以下のような変化が起きる可能性があります。
1. 情報使用料(ライセンス料)の支払い
AIがニュース記事などを要約して表示する場合、プラットフォーマー側がメディアに対して「使用料」を支払う仕組みが義務付けられる可能性があります。すでに欧州などでは一部導入されています。
2. 「AI除外(オプトアウト)」の簡易化
サイト運営者が「検索結果には出してほしいけど、AIの学習や要約には使わないでほしい」という設定を、簡単かつ不利益なく行える仕組みが整備されるでしょう。
3. ユーザーへの影響
我々一般ユーザーにとっては、以下のような変化が予想されます。
- AI回答の減少:契約していないソースの情報はAIが答えなくなるかもしれません。
- 出典の明記:AIの回答の下に、参照元リンクがより大きく、明確に表示されるようになる(クリックを促すデザインへの変更)。
まとめ:これは「Webの崩壊」を防ぐための戦い
「AIが答えてくれるなら便利でいいじゃないか」と思うかもしれません。
しかし、情報を作る人(記者、ブロガー、専門家)に利益が還元されない状態が続けば、誰も新しい情報をネットに書かなくなります。そうなれば、AIも学習するデータがなくなり、結果的にAI検索自体も馬鹿になってしまいます。
公正取引委員会の調査は、AIを否定しているのではなく、「情報を作る人とAIが共存できるエコシステム」を守るための必要なプロセスなのです。

