2025年8月31日深夜、アフガニスタン東部をマグニチュード6.0の強い地震が襲いました。この地震で2,200人以上もの尊い命が失われたというニュースに、多くの人が胸を痛めていることでしょう。しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。同程度の地震がもし日本で発生していたら、これほど甚大な被害につながったでしょうか。
この悲劇の背景には、単なる自然の猛威だけでは説明できない、根深い社会構造の問題が横たわっています。それは、多くの人々が暮らす「住宅」そのものの脆弱性です。元新聞記者として、今回はこのアフガニスタン東部で起きた地震の被害を拡大させた、耐震性の低い住宅の問題に焦点を当て、その原因と背景を冷静に分析していきます。
【最新】アフガニスタン東部地震で2,205人が犠牲に – なぜこれほど被害が拡大したのか?
【アフガニスタン大地震】
— セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン / Save the Children Japan (@scjapan) September 2, 2025
2025年9月1日 — アフガニスタン東部で深夜にマグニチュード6.0の壊滅的な地震が発生しました。
クナール州、ナンガルハール州、ラグマン州で少なくとも800人が命を落とし、3,000人以上が負傷したとされており、その中には多くの子どもたちが含まれています。… pic.twitter.com/MqDyjkN0z0
まず、被害の概要を客観的な数字で見ていきましょう。震源の深さは約10kmと浅く、地震のエネルギーが直接地上に伝わりやすい状況でした。さらに、発生が多くの住民が就寝中だった深夜であったことも、被害を大きくした一因です。
最終的な死者数は2,205人、負傷者は3,640人以上にのぼり、6,700軒以上の家屋が完全に倒壊しました。山岳地帯では土砂崩れが頻発し、救援活動も困難を極めています。しかし、これらの要因を差し引いても、この被害の規模は突出しています。その最大の原因は、専門家が口を揃えて指摘する「建物の脆弱性」にあるのです。
「震度5弱程度でも倒壊」- アフガニスタンの住宅が地震に弱い3つの根本的理由
なぜアフガニスタンの住宅は、これほどまでに地震に無力なのでしょうか。その理由は、決して一つではありません。貧困、紛争、そして伝統が複雑に絡み合った、3つの根本的な要因が存在します。
日干しレンガ(アドベ)造りが主流の実態
現地の家々の多くは、「アドベ」と呼ばれる日干しレンガで作られています。これは、粘土を型に入れて天日で乾燥させただけの、いわば「焼いていないレンガ」です。安価で手軽に入手できるため広く使われていますが、強度は非常に低く、日本の基準で言えば震度5弱程度の揺れでも簡単に崩れ落ちてしまいます。
鉄筋コンクリートを使わない伝統工法の限界
さらに深刻なのは、これらのレンガを積み上げるだけの「組積造(そせきぞう)」という工法が主流であることです。鉄筋やコンクリートの柱といった、揺れに抵抗するための補強材は一切使われません。レンガとレンガを繋ぎとめるのは、近くの畑で採れる泥をこねただけの「泥モルタル」。これでは、地震の強力な横揺れに対して、構造が一体となって耐えることは不可能です。
建築基準法の不備と施工監督の欠如
30年近く続いた戦争と混乱は、国の仕組みそのものを破壊しました。安全な建物を建てるためのルールである「建築基準法」は存在するものの、長らく機能不全に陥っています。たとえ基準があったとしても、それを現場で監督し、遵守させる行政システムが確立されていません。結果として、耐震性など考慮されない危険な建物が、何のチェックも受けずに次々と建てられてしまうのが現実なのです。
プロが解説:なぜ日干しレンガの家は地震で「木っ端みじん」になるのか
「組積造は世界で最も耐震性の低い建物の一つ」——。これは、防災の専門家たちの共通認識です。では、具体的にどのようなメカニズムで、あれほど悲惨な倒壊に至るのでしょうか。
組積造建築の構造的弱点とは
組積造の弱点は、その構造的な一体性の欠如にあります。例えるなら、積み木を泥で軽く接着しているようなものです。垂直方向の重さにはある程度耐えられますが、地震による横方向の力には全く抵抗できません。接着剤である泥モルタルが剥がれてしまえば、あとは個々のレンガがバラバラに崩れ落ちるだけ。これが「木っ端みじん」になる正体です。
地震の揺れに対する脆弱性のメカニズム
地震の横揺れが加わると、まず壁が外側や内側にはらむように倒壊します。すると、その壁に支えられていた重い屋根が、為すすべなく落下してきます。深夜の地震で被害が拡大したのは、就寝中の住民が、この落下してきた屋根や崩れた壁の瓦礫の下敷きになってしまったためです。逃げる間もなく、自宅が凶器と化すのです。
実際の被害状況から見る倒壊パターン
被災地の映像を見ると、まるで爆撃を受けたかのように、村全体が瓦礫の山と化している場所も少なくありません。特に2階建ての家屋では、1階部分が完全に押しつぶされ、その上に2階部分が乗っかる「パンケーキクラッシュ」と呼ばれる倒壊形式が目立ちます。このような状況では、生存空間がほとんど残されず、救助活動は極めて困難になります。
あなたが知らないアフガニスタンの建築事情 – 耐震性より優先される現実
「なぜ、そんな危険な家に住み続けるのか?」——日本に住む私たちは、そう疑問に思うかもしれません。しかし、現地の人々には、耐震性よりも優先せざるを得ない切実な現実があります。
建設コストの格差:レンガ造50万円 vs RC造300~500万円
経済記者として、私はこのコストの差に注目せざるを得ません。約18坪の家を建てるのに、伝統的なレンガ造りなら約50万円で済むのに対し、鉄筋コンクリート(RC)造にすると300万円から500万円、つまり6倍以上の費用がかかります。日々の食事にも事欠く人々にとって、この差は絶望的です。これは、安全が「お金でしか買えない」という、厳しい現実を突きつけています。
材料入手の困難さと戦争の影響
アフガニスタンは乾燥した土地で、建材となる木材は非常に貴重です。長年の紛争は国内の物流網を寸断し、鉄筋やセメントといった近代的な建材の安定供給を困難にしています。その点、どこでも手に入る「土」を原料とする日干しレンガは、彼らにとって最も合理的で現実的な選択肢なのです。
気候に適応した伝統建築の智慧と限界
日干しレンガの家は、「夏は涼しく、冬は暖かい」という、現地の厳しい気候に適応するための先人の知恵でもあります。住民が自らの伝統的な住まいに愛着を持っているのも事実です。しかし、その知恵も、ひとたび大地震が来れば、人々の命を奪う凶器へと変わってしまう。伝統文化の尊重と、防災という普遍的な価値をどう両立させるか。これは非常に難しい問題です。
国際支援が始動中!日本のNGOが取り組む画期的な耐震技術普及
この絶望的な状況に、一筋の光を灯そうと活動している日本のNGOがあります。彼らは、日本の進んだ技術を一方的に押し付けるのではなく、現地の文化や経済状況に合わせた、持続可能な支援を模索しています。
ピースウィンズ・ジャパンの耐震工法モデルハウス
ピースウィンズ・ジャパンは、過去の地震支援の経験を活かし、伝統的なデザインはそのままに、安価な材料で耐震性を向上させる技術を開発。モデルハウスを建設し、その有効性を現地の人々の目に見える形で示しています。
ADRA Japanの55棟耐震住宅建設プロジェクト
ADRA Japanは、特に被害の大きかった地域で、実際に人々が住むための耐震住宅を55棟建設するプロジェクトを開始しました。これは単なる箱モノの支援ではありません。地域の防災委員会を組織し、住民自らが防災力を高めていけるような仕組みづくりも同時に進めています。
現地技術者への防災教育の実践例
CWS Japanなどの団体は、現地の技術者や住民を対象にした防災研修に力を入れています。研修後、参加者の防災知識に関するテストの点数が平均4点から93点にまで劇的に向上したというデータもあります。正しい知識こそが、命を救う第一歩になるのです。
よくある質問と回答
Q. なぜアフガニスタンの人々は、危険だとわかっていても日干しレンガの家に住むのですか?
A. 主に経済的な理由です。鉄筋コンクリートを使った耐震性の高い住宅は、日干しレンガの家の6倍以上の建設コストがかかります。貧困の中で生きる人々にとって、それは現実的な選択肢ではありません。また、気候への適応や伝統文化という側面もあります。
Q. 日本の耐震技術をそのままアフガニスタンに持っていけば解決する問題ですか?
A. いいえ、そう単純な話ではありません。日本の技術は高価な建材や高度な施工技術を前提としています。現地で手に入る材料で、現地の職人が建設でき、かつ安価でなければ普及しません。文化や経済状況に合わせた技術の「最適化」が不可欠です。
Q. 私たちにできることはありますか?
A. まずは、この問題に関心を持ち続けることです。そして、日本赤十字社や現地のNGOが行っている募金活動への協力も、直接的な支援につながります。少額の寄付が、現地で耐震住宅を建てるためのレンガ1個、セメント1袋に変わるのです。
まとめと今後の展望
今回見てきたように、アフガニスタン東部の地震被害は、耐震性の低い住宅という問題を浮き彫りにしました。しかしその根底には、貧困、長年の紛争、そして教育の機会の欠如といった、より複雑で構造的な課題が存在します。
これはアフガニスタンだけの問題ではありません。世界には、同様のリスクを抱えながら暮らす人々が数多く存在します。災害に強い社会を築くためには、単に頑丈な建物を建てる技術だけでは不十分です。安定した経済、平和な社会、そして正しい防災知識を普及させる教育。これら全てが揃って、初めて人々の命は守られるのです。この悲劇から私たちが何を学び、どう行動に移していくのかが、今まさに問われています。
参考文献
- 日本赤十字社:2025年アフガニスタン地震救援金 (出典)
- BBC:Strong aftershock hits Afghanistan after quake kills more than (出典)
- Al Jazeera:Afghanistan earthquake death toll rises to 2200 (出典)
- NHKニュース:アフガニスタンで地震 死者多数 現地の情報は? (出典)
- 琉球大学学術リポジトリ:アフガニスタンにおける学校校舎の耐震性能評価のためのレンガ組積造の圧縮強度に関する研究 (出典)
- 防災システム研究所:ネパール地震(2015) 地震国でなぜレンガ造りなのか (出典)
- ADRA Japan:いよいよ耐震性がある安全な家の建設がはじまります! (出典)


