あなたの目の前で誰かが突然倒れたら、あなたは迷わずAEDを使えますか?
AED(自動体外式除細動器)は、心停止を起こした人を救うための重要な医療機器です。しかし、日本ではAEDの設置数が世界トップクラスであるにもかかわらず、実際に使用されるケースは わずか4% にとどまっています。
「助けたい」「AEDを使うべきだ」と頭では分かっていても、実際の場面では ためらいが生じてしまう のが現実です。その理由として、以下のような心理的な壁が挙げられます。
✅ 「使い方を間違えたらどうしよう…」 → 知識不足による不安
✅ 「他の誰かがやるはず…」 → 責任回避の心理
✅ 「相手が女性だったら問題になるのでは?」 → 性別による抵抗感
✅ 「もし訴えられたらどうしよう…」 → 法律や社会的リスクへの誤解
こうした 心理的なハードルをどう乗り越えればよいのか?
本記事では、AEDが使えない理由とその克服方法を詳しく解説します。 「もしもの時」に迷わずAEDを使うためのポイントを押さえておきましょう!
🟢 AEDを使うべきなのに、なぜためらってしまうのか?
AED(自動体外式除細動器)は、心停止状態の人を救命するための重要な医療機器です。しかし、日本では設置数が世界トップレベルにもかかわらず、実際に使用されるケースは わずか4% にとどまっています。
「助けたい」という気持ちはあっても、なぜAEDを使うことをためらってしまうのか? その理由を探ります。
▶ AEDが必要な状況でも使われない現実
日本では年間7万人以上が心臓突然死に見舞われています。そのうち、多くのケースでAEDが使用されていれば助かる可能性がありました。
特に公共の場で倒れた場合、周囲の人々の対応が生存率を大きく左右します。
しかし、消防庁のデータによると、目撃者がいる状況でもAEDが使われた割合は約4%。
なぜ、必要なときに使われないのか?
🔹 主な理由
- 「使い方がわからない」(技術的な不安)
- 「他の誰かがやるだろう」(責任回避の心理)
- 「女性だったらどうしよう」(性別による心理的抵抗)
- 「誤って使用したら責任を問われるのでは?」(法律や訴訟への不安)
AEDは音声ガイドに従えば誰でも使える設計になっていますが、実際には心理的な壁が大きく、行動に移せない人が多いのが現実です。
▶ 実際の事例:マラソン大会で起きたAED未使用のケース
2013年のあるマラソン大会で、39歳の女性ランナーがゴール1km手前で心停止しました。沿道にいた人がすぐに心肺蘇生(CPR)を開始し、救護車もAEDを持って駆けつけました。
しかし、AEDは使われませんでした。
後日、家族が大会の主催者に問い合わせたところ、驚くべき理由が明らかになりました。
「救護員が男性で、倒れていたのが女性だったため、使用をためらった」 というのです。
🔹 何が問題だったのか?
- AEDの電極パッドは素肌に貼る必要がある → 女性の胸を露出させることに抵抗を感じた
- 周囲の目が気になった → 「セクハラだと思われるかも」との不安
- 躊躇しているうちに時間が過ぎた → その間に救命率は低下
最終的に救急隊が到着し、AEDが使用されましたが、すでに心停止から50分が経過しており、女性は重い後遺症を負いました。
このようなケースは決して珍しくありません。
「AEDは必要だとわかっているのに、なぜ使えないのか?」 ここに、私たちが向き合うべき課題があるのです。
🟢 AEDを使えない心理的な理由とは?
AEDの必要性は理解されているものの、実際には多くの人が使用をためらってしまいます。その背景には、性別によるハードル・法律や社会的リスク・緊急時の心理的障壁といった、さまざまな要因が関係しています。それぞれ詳しく見ていきましょう。
▶ 性別によるハードル(女性への使用をためらう問題)
AEDは、心停止を起こした人の胸部に電極パッドを直接貼る必要があります。しかし、この「胸を露出しなければならない」という点が、特に女性へのAED使用をためらわせる原因となっています。
🔹 実際のデータ
- 熊本大学の調査によると、男性へのAED使用率は3.2%なのに対し、女性は1.5% と大きな差がある。
- 15〜49歳の成人では、男性7.0%に対し、女性3.8% と、若年層ほど女性へのAED使用率が低い。
🔹 なぜ女性にはAEDが使われにくいのか?
- 「服を脱がせることに抵抗を感じる」
- 男性が女性にAEDを使う際、「セクハラと思われるのでは?」という心理的なブレーキが働く。
- 「周囲の目が気になる」
- スマートフォンで撮影され、ネットに拡散されることを恐れる人もいる。
- 「同性の救助者を探している間に時間が過ぎる」
- ためらっているうちに1分経過するごとに救命率が10%低下する。
▶ 解決策として
- 電極パッドを貼った後にタオルや服をかける
- 人垣を作り、プライバシーを守る
- 救助者全員が「命を最優先に」考える文化を作る
AEDは服の上から使用できませんが、適切に配慮すればプライバシーを守りつつ救命処置を行うことが可能です。
▶ 法律・社会的リスク(訴訟の不安と誤解)
AEDを使う際、「もし失敗したら責任を問われるのでは?」と不安に思う人もいます。しかし、日本の法律では「善意の救命処置は保護される」ことが明記されています。
🔹 日本の法律におけるAED使用の保護
- 刑法第37条「緊急避難」
- 人の生命を救うために行った行為は、仮に結果的に死亡したとしても、違法行為にはならない。
- 民法第698条「緊急事務管理」
- 他人のために救命処置を行った場合、悪意や重大な過失がない限り、損害賠償の責任を負わない。
つまり、AEDを適切に使用する限り、法的責任を問われる可能性はほぼゼロなのです。
🔹 SNS上の誤解 「AEDを使ったら訴えられるかも」という誤解が広がる背景には、SNSや都市伝説の影響もあります。しかし、実際には日本国内で「AEDを使用したことで訴えられた」ケースは確認されていません。
▶ 解決策として
- 「AEDを使ったら訴えられる」という誤解を解消するための情報発信
- AEDの使用は法律で守られていることを周知
- 職場や学校での救命講習の実施
法律的には何も問題がないにもかかわらず、不安が行動を妨げることがあるのです。正しい知識を持つことが、ためらいを減らす第一歩です。
▶ 心理的な障壁(緊急時のパニックや判断ミス)
人間は緊急時に突然の判断を求められると、「行動麻痺(フリーズ反応)」を起こすことがあります。AEDを使わない理由の中には、単なる知識不足ではなく、こうした心理的な要因も関係しています。
🔹 心理的なハードル
- 「自分にできるのか?」という自信の欠如
- 「間違ったらどうしよう」「誰か別の人がやるはず」という考えが浮かぶ。
- 周囲の反応を気にしてしまう
- 「もし自分が率先してAEDを使って、結果的に助けられなかったら…」といった恐れ。
- 「緊急時に正しい手順を思い出せない」
- 救命講習を受けていても、実際の場面では知識が飛んでしまうことがある。
▶ 解決策として
- AED講習を定期的に受講し、実際に使うシミュレーションをする
- 「あなたがやるべきだ!」と明確に指示を出す人がいると行動しやすくなる
- 「周りが何もしていないから」といって自分も動かないのではなく、最初の一歩を踏み出す意識を持つ
こうした心理的な障壁は、知識と経験で乗り越えることができます。
🟢 AEDを使うための心理的ハードルを克服する方法
AEDの使用をためらう理由が「知識不足」「心理的な抵抗」「法律への誤解」にあることが分かりました。では、これらのハードルをどう克服すればよいのでしょうか?
ここでは、事前に知っておくべきAEDの知識と、ためらわないための具体的な対策について解説します。
▶ 事前に知っておくべきAEDの知識と講習の重要性
AEDは誰でも使える設計になっていますが、緊急時に適切に使うには 「実際に触って使った経験」 が重要です。
消防庁やAEDメーカーが開催する講習を受けておくと、実際の場面での心理的ハードルが大きく下がります。
🔹 AEDの基本知識
🔹 AED講習の効果
AEDの講習を受けた人の中には、「実際に使える自信がついた」と答える人が多くいます。
また、講習を受けることで 「女性へのAED使用のためらい」 も軽減されるという調査結果があります。
▶ 講習で学べること
- 電極パッドを適切に貼る位置
- 女性への配慮(下着を少しずらして貼る・タオルをかけるなど)
- 周囲の協力を得る方法(「あなたは119番!」「あなたはAEDを持ってきて!」と明確に指示する)
🎯 ポイント
▶ AEDの使い方を「知っている」だけでなく、「実際に使う経験」を積むことが大切!
▶ 講習で心理的抵抗を減らし、いざというときに迷わず行動できるようにする!
▶ ためらわないための「具体的な手順と考え方」
AEDを使うことをためらわないためには、「自分にできる!」という意識を持つことが重要です。
そのために、実際の救助場面を想定した具体的な手順を知っておきましょう。
🔹 AEDを使うときの5つのステップ
- 周囲の安全を確認し、意識の有無をチェック
▶ 「大丈夫ですか?」と声をかけ、反応がなければ119番通報とAEDの手配を依頼。 - 胸部を露出し、電極パッドを素肌に貼る
▶ 服をずらす or 切る(女性の場合は下着を少しずらし、タオルで隠す)。 - AEDの音声指示に従って操作
▶ 機械が自動で解析するので、指示通りに行動すればOK。 - 「ショックが必要です」と指示が出たら、ボタンを押す
▶ 周囲に「離れてください!」と声をかけ、安全を確認してボタンを押す。 - ショックの後も胸骨圧迫(心臓マッサージ)を続ける
▶ AEDが次の指示を出すまで、絶えず心肺蘇生を続ける。
🔹 「女性へのAED使用」がためらわれるときの対策
女性にAEDを使用する際、救助者がためらってしまうことがあります。
しかし、「命を最優先に考える」という意識があれば、躊躇せずに対応できます。
▶ ためらいをなくすための工夫
- 「服を切るのはOK」という意識を持つ
▶ AEDは素肌に直接貼らないと効果がないため、必要なら服を切ることもためらわない。 - プライバシーを守る方法を知っておく
▶ タオルや服をかける / 人垣を作って隠す - 救助者が複数いる場合は「同性の人にお願いする」のもあり
▶ ただし、同性の救助者を探している間に時間が過ぎるリスクがあるので注意。
🔹 心理的抵抗を減らす考え方
AEDの使用にためらいを感じたら、次のように考えてみましょう。
✅ 「自分が使わなかったら、この人は助からないかもしれない」
✅ 「AEDの指示通りにやれば間違えない」
✅ 「周囲の目よりも、目の前の命が大事」
✅ 「誰かがやるのを待つのではなく、自分が動く!」
AEDを正しく使える社会へ
AEDは命を救うための重要な医療機器ですが、多くの人が「ためらい」を理由に使用を躊躇しています。その背景には、性別による抵抗感・法律への誤解・心理的な障壁がありました。
では、AEDをもっと「使いやすい社会」にするために、私たちは何をすればよいのでしょうか?
▶ AED使用のために今すぐできること
AEDの使用率を向上させるためには、一人ひとりが「いざというときに使える状態」にしておくことが重要です。
✅ AEDの使い方を知る
- まずは、AEDがどのように動作するのかを理解する。
- 「自分が使っていいのか?」ではなく、「自分が使うべきだ!」という意識を持つ。
✅ AED講習を受ける
- 体験を通して、「実際に使える」という自信をつける。
- 救助の流れをシミュレーションし、心理的なハードルを下げる。
✅ 職場や学校でAEDの設置場所を確認する
- 「どこにAEDがあるのか?」を事前に把握しておくだけで、緊急時の対応がスムーズになる。
- 職場や学校で定期的にAEDの使用訓練を行う。
✅ 女性にAEDを使用する際の対策を知る
- タオルや服で隠す、人垣を作るなど、プライバシーを守る方法を意識する。
- 「救命が最優先」という意識を持ち、ためらわないようにする。
▶ 周囲の協力と社会の理解を広めるために
AEDの使用に対する不安を減らし、もっと使いやすい社会にするためには、「個人の意識改革」だけでなく、社会全体の理解を深めることが大切です。
🔹 1. 正しい情報の周知
- 「AEDを使うことで訴えられることはない」「法的に保護されている」という事実を広める。
- SNSなどで拡散される誤った情報に惑わされない。
🔹 2. AED講習の義務化
- 学校や職場でAED講習を必修化し、緊急時の対応力を向上させる。
- 海外ではAEDの使用率が高い国ほど、講習が義務化されている。
🔹 3. 女性へのAED使用への抵抗をなくすための啓発活動
- 「服を切るのはOK」「下着を少しずらせばOK」といった実用的な知識を広める。
- 「男性が女性にAEDを使うことへの不安をなくすための対策」を社会全体で考える。
📌 まとめ
- AEDは適切に使用すれば、人の命を救うことができる。
- ためらいをなくすためには、AED講習を受け、知識だけでなく実践経験を積むことが重要。
- 「いざというときに迷わず使える社会」を作るために、個人だけでなく社会全体の理解を深める必要がある。
- 周囲の協力と意識改革が、AEDの使用率向上につながる。
🚀 今日からできること:「AEDの場所を確認する」「AED講習を受ける」「正しい知識を広める」
これらを一人ひとりが実践することで、AEDをためらいなく使える社会へとつながっていきます。
📌 書いた人:水野 恵理|心理学ライター